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第1章 60 ユダとスヴェン

last update Last Updated: 2025-08-22 00:12:20

「お前……話を聞いていたのか?」

ユダがスヴェンを睨みつけた。

「ああ。聞いていた……というか、聞こえていたと言った方がいいかもな?」

焦り顔のユダとは対照的にスヴェンは余裕の表情で部屋の中に入って来た。

「一体いつから聞いていたんだ?」

「リーシャもスヴェンも眠っている……と、お前が言ったあたりからかな?」

そしてニヤリと笑った。

「く……勝手に人の話を盗み聞くとは……」

「だったら聞かれてまずいような話なんかするなよ」

そしてスヴェンはユダに一歩近づいた。

「お前、一体何考えてるんだ? 仮にも『エデル』の兵士で、しかも王命を受けて姫さんを迎えに来たんだろう? それなのに、ここまで来て姫さんを逃がすとか言って。大体普通に考えたって逃げ切れるはず無いだろう? それともお前はそんなに姫さんを危険な目に遭わせたいのか?」

「違う! お前は次の村がどれだけ危険か何も知らないからそんなことが言えるんだ! いいか? あの村は死にかけてるんだぞ! そんな場所にクラウディア様を連れて……みすみす危険な目に遭わせるわけにはいかないからだ!」

「ユダ……声が大きいわ。他の人達が起きてしまうかもしれないから、落ち着いてくれる?」

感情をむき出しにするユダを落ち着かせる為に声をかけた。

「あ……申し訳ございません……」

ユダは項垂れた。

「ユダ、お前、今村が死にかけてるって言っただろう? だからこそ尚更姫さんは旅を続けるんだよ。次の村だって『レノスト』国の領地なんだよ。今まで姫さんは俺たちの村や、この町を救ってくれた。だから次の村だって姫さんは救いたいんだよ。そうだろう? 姫さん」

スヴェンは顔を私に向けた。

「ええ、そうよ。あの村は助けを必要としているわ。だから私はどうしても行かなければならないの。折角の申し出なのに受け入れることが出来ないわ。ごめんなさい、ユダ」

ユダに頭を下げた。

「クラウディア様……ですが本当に旅を続けられるのですか? この先も危険が伴うかもしれないのに……?」

それは…嫁いだ後のことも案じての台詞なのだろうか?

だけど私の覚悟はとうに出来ている。

「ええ、そのつもりよ」

「そんな……」

何故かユダは酷く傷ついたような表情を浮かべた。

「ユダ?」

「ユダ。お前、姫さんを危険な目に遭わせたくないから逃がすと言ってるが……本当はそうじゃないだろう?」

「よせ……」

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